御岳山の成立ち・自然
御嶽のあらまし
御嶽は北アルプスの最南端、長野県と岐阜県との県境にまたがる標高3067mの複合火山の独立峰である。20〜30万年前、古成層とカコウ岩の地盤を貫いて噴出した火山は、その後も数回の爆発を重ねて、現在のような複式火山となったといわれる。現在、活動史区分では静穏期に入っているが、昭和54年10月28日に地獄谷に新火口を開いて水蒸気爆発が起こり、その後は小康場状態を保っている。
中央火口丘には一の池があり、火口壁の南東に剣が峰があって御嶽神社奥社が祭られている。北東の火口壁は、その後の大爆発によって崩れ去ったため、火口底である一の池に集まる水は、二の池に流れ出してたまっていない。剣が峰の北方には、摩利支天山(2959.2m)、継子岳(2858.9m)があり、南方には継母岳(2867m)がある。その広大な山頂部分には、火口跡といわれる三の池、四の池、五の池など数多くのくぼ池がある。また、摩利支天山の火口原は賽の河原(さいのかわら)と呼ばれ、二の池と摩利支天との間に広がっている。
また、昭和59年9月14日には御嶽の南側山ろくを震源としたマグニチュード6.8の地震(長野西部地震)が発生した。この地震のために御嶽の南側山腹が崩壊し、その土石流のために29名の人名が失われ、河川・道路・住宅などに大きな被害がもたらされた。
御嶽は南北に長く、東西に短い山容であるが、そのすそ野は広くゆるやかに広がり、昔から信仰登山の対象として親しまれていた。地方修験道の道場として戒律を重んじる道者たちを主とした御嶽信仰も、江戸時代に入ると覚明(かくめい)や普寛(ふかん)たちによって、御嶽講社を中心とした大衆信仰に変わっていった。
明治末期の中央本線の開通や中山道の改修による交通革命は、西洋の文明思想の影響をもたらし、女人禁制であったこの霊山にも、女性登山者の姿が見られるようにまで変わっていった。それのみでなく、明治24年のウォルター・ウェストンの登山を契機に、スポーツ登山の対象として若人に親しまれるようになり、最近ではバス路線の発展によって観光的要素が強くなり、信仰・スポーツ・観光など多方面にわたる登山者でにぎわっている。
御岳周辺の植生
御岳山の尾根は長く、4合目(おんたけ休暇村は4合目半)を境に上が国有林、下が民有林に分かれている。しかも、位置が中部日本のど真ん中とあって、気象は、太平洋型と日本海型の中間で、植物も広葉樹と針葉樹の入り乱れる混交林が特徴である。
御岳周辺の植物を見るとき、頭の中に入れておきたいのは、植物の垂直分布である。御岳のような高くて大きい山では、同じ高さの所に同じ類の植物が、横に帯状になって、分布して植物帯をつくり階段状に並んでいる。
植物の成育に必要なものの中で、もっとも重要なものは温度であり、水分である。植物は、それぞれに適した温度なり、水分なりの所に成育し、繁殖している。
気温は、高度100mごとに約0.5℃違い、植物もそれぞれの高さに応じて異なったものが分布する。
植物学者の武田久吉博士の説によると、北緯36度は、我が国の植物帯の垂直分布の標準緯度とされており、北緯35.9度に位置する御岳は、ちょうど標準緯度にある。中部地方における標準としての垂直分布は、海抜500m以下が「丘陵帯」、海抜500m〜1500mの「低山帯」、海抜1500m〜2500mが「亜高山帯」、海抜2500m以上の「高山帯」にわたっている。
低山帯 -海抜500m〜1500m
この地帯は落葉広葉樹帯とも称せられ、多種類の落葉高樹が混じりあって森林をつくっているが木曽五木が生い繁っているのもこの地帯である。
御岳高原には、春はスズランが匂い、初夏にはササユリが咲き、オオバギボシはいたるところで花茎をのばす。夏はコオニユリ、マルバダケブキ、ヤナギランが咲き、秋は一面にススキ原となるが、その根もとにはオオナンバンギセルの寄生が見られ、ワレモコウ、マツムシソウの花も咲く。
その辺の湿地では、ミズトンボ、ミズチドリ、サワヒヨドリ、クサレダマ類の花も見られる。
樹木では、ミズナラ、シラカンバなどの広葉樹も多く見られ、ミズナラの大木は珍しく、国有林でなければ残らない。この他、ヤマハンノキ、トチ、ウワミズザクラ、ウダイカンバ、シナノキ、カツラ、ウラジロモミなどが混じる。
また、低木の、ノリウツギ、レンゲツツジ、ニシキウツギもあり、林縁ではベニバナイチヤクソウやイワツツジ、ツマトリソウ、マイヅルソウなども見られる。
亜高山帯 -海抜1500m〜2500m
この地帯は常緑針葉樹帯の名もあるように針葉樹の多い地帯である。下部ではヒノキ、ウラジロモミ、コメツガ、針葉樹としては唯一の落葉樹であるカラマツも混じっている。上部ではシラビソ、オオシラビソがみられる。
落葉樹としては、ナナカマド、ヒロハカツラ、ミネザクラ、オオカメノキ、サラサドウダン、ダケカンバなどがある。ダケカンバは次第にダケカンバ帯をつくって、亜高山帯上限の森林限界となっている。
混生植物の多い田の原天然公園
田の原天然公園は2180mの高度にあり、湿原の部分もあって高山植物と混生植物が多い。
コメツガ、シラビソ、オオシラビソなどの高木もあり、相当の直径でありながら盆栽状である。その他ハイマツ、ホンドミヤマネズ、ケナシハクサンシャクナゲ、コバイケソウ、オヤマリンドウ、ヨツバシオガマ、オンタデ、ミヤマアキノキリンソウ、シラネニンジン、コケモモ、ガンコウラン、チングルマ、モミジカラマツ、クロユリ、ダケスゲ、などが見られる。田の原から上は、しばらくオオシラビソ林が続き、やがて森林限界のダケカンバ帯があらわれる。
高山帯 -海抜2500m以上
森林限界のダケカンバ帯をぬけると高山植物の本拠である高山帯となる。ハイマツ林が広く続き、合間にはミヤマハンノキ、ウラジロナナカマド、オンタケナナカマド、タカネナナカマドが混じる。樹木のないところは「お花畑」となっている。
四の池には見事なお花畑がある。ハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンバイ、モミジカラマツ、タカネヨモギ、コイワカガミなどが色採りどり美しい花をつけている。また、コマクサ、クロユリなどもみられる。
3067mの剣が峰付近は砂れきの連続で、植物はイネ科、ツツジ科などの小型のものが点々と見られる程度である。御岳は他の山に比べ火山灰土質のためか数、種類とも少なく、220種程度しかないと言われている。
御岳山 | 植物分布 | 動物分布 | 標高 |
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王滝頂上 | 3000m 高山帯 |
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八合目 田の原 [2180m] |
ダケカンバ帯[森林限界] |
2500m 亜高山帯 |
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八海山 | 2000m 亜高山帯 |
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休暇村 [1450m] 清滝 |
1500m 低山帯 |
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王滝 | 1000m 低山帯 |